世界の変わり目

10日振りに人間としての生活をはじめるために外出した。


冬はもうすぐ死ぬと、風に乗った香りが知らせてくれた。あまりに早くそしてあっけない冬の死に、私は悲しんだ。10日前からカーテンを閉めたままの部屋で息を潜めて人間としての全てを放棄していたら、春がすぐそこまで来ていた。春の訪れにこんなにも憂鬱になったのは生まれて初めてだ。

だって、10日前には馬鹿みたいに冬がはしゃいでいたのに。冬は全てを許してくれる存在に感じていたけれど、それでもここには私の知っている冬は、季節はなかった。


いつになったら慣れるのだろうか。


冬用のカーキ色のモッズコートが欲しかったけれど、カーキ色の秋春用のコートに変えなくてはならないなと、陽に照らされながら思った。


向かいの家は知らぬ間に壁の塗り替えが終わり、新しい季節をどんと待ち構えているようだった。


外出中、盆地にいるんだと実感した。景色が360度ぐるりと山で、隣の町までは山を越えなきゃならない。よく聞く「山を越える」の意味が今まであまりわからなかったけど、なんとなく、すとんと入ってきた。

外出から戻ると虫をみた。またうんざりした。


私は2月に外に干された布団がどんな寝心地を与えてくれるのか知らない。隣のアパートのベランダに干された布団は私の目には妙に移った。


もうすぐ2月が終わる。


私はこのずしりと重い、子供のような精神のまま一年を捨てた。3月にはもうここに来て1年になる。